221

朝、風がつよい。雪がたくさん降っていた。あちゃあと傘を持って家を出たんだけど、雪はものの3分ほどでぱたりと止んでしまった。しかし依然として空は晴れず、黒煙のような雪雲が頭上にもうもうとたちこめていた。通りかかった公園をふいに見やると、隅で番の小鳥のように並んだ紅梅と白梅が、ひっそりと咲きこぼれていた。

大きな黒い雪雲の塊が、風に流されて、虫食いのような小さな穴がたくさん、疎らに開きぼろぼろになる。そして虫食いから、群青が徐々に侵食していく。その光景は、ちょうど紙に付いた火が、それを焦がしながら燃え拡がっていくさまに似ていた。

正午を過ぎ、風が急激に強まる。そして気温はどんどん下がる。はやく暖かくなってほしいなあ、と考えながら。春の嵐すさぶ街を、ぼんやりと眺めていた。

人を待ちながら、スタバでぼうと本をよんでいる。横の人の話が嫌でも耳に入る。その内容がなんとなくいやな感じで。しんどくなってしまった。

220

生物学の講義を受ける夢を見た。薄暗い講義室のスクリーンに、細かい蛾の画像が50匹くらい映し出されている。そして、それらの蛾を囲んでいる枠の左に、同じ大きさの空白の枠がある。教授はおもむろに、僕の左斜め前に座ってる人をあてると、彼に、このなかで夜に活動するものは?と問うた。すると、左斜め前の人は席から立ち上がって、その場から動かずに。きっちり配置された蛾を次々と指さしていった。指さされた蛾は、横にこさえてある空白の枠に移る。やがて彼が夜の蛾を移し終えると、教授は特に感心したふうもなく機械的に、では、昼に活動するものは?と問うた。そして左斜め前の人は先と同じようにまた、蛾を淀みなく空白へひょいひょいと移していった。そのあたりで、その夢の記憶は途絶えている。
もうひとつ、自宅でぼうとウルトラマン80を見ている夢を見た。画面ではウルトラマンがサータンと交戦していたんだけど、よくよく考えてみると、サータンは帰ってきたウルトラマンの怪獣だ。でも絶妙に80にも出ても違和感がないような造形をしている。

なんかかなり疲弊していて、いまにも寝てしまいそうだ、でも今日のうちにやりたいこともあるから、まだ寝ない。そういえば昨日発注したジッパープルが届いてた。よきかな。

219

オレンジイズニューブラックという海外ドラマを見始めた。好みな内容で、掴みでグッときた。主人公が僕の理想の感じで、続きがかなり気になる。

昼過ぎ、出かけようとしてリュックを開けると、皮のジッパープルがぶちっと千切れた。コーナンに置いているかと問い合わせてみたが、生憎扱っていないとのことで、泣きながら目立たないようにテープでくっつけて、アマゾンでぽちった。ぽちったあとで、もしかしたら作業着屋さんだったら置いてるかも、と思いついたけど、もうぽちってしまったし、もしあったら悔しいから確認しなかった。

今日もいい天気で、快適な気温。通りの影が青い。空の青さが影に移るのだろうか。辻で、くすんだ小さな古いビルがひっそりと取り壊されている。工事はかなり進んでいて、ビルの3分の1ほどが効率よく削られていた。その断面が、等分に切り分けたケーキのように綺麗だったので、思わず見惚れた。休日なので工事は中断されており、取り壊し現場は物音ひとつせず静かで、無人の現場でショベルカーが1台ぽつねんと、ビルの断面に向かって、うなだれていた。

ネカフェでそれでも町は廻っているの最終巻をついに読んでしまった。終わっちゃうのが寂しくて、避けていた。読んだあと、やっぱり少し寂しかった。あとジョジョリオンの新刊があつかった。常秀がどんどん成長してかっこよくなっていくのが、憎いなあ。

218

とてもいい天気。そこのコンビニまで自転車をこいでいると、やにわに視界の隅から、シジュウカラらしき鳥が静かに飛び出して、電線にとまった。とまった横には、鳥の仲間が二羽いて。さえずりを交わしていた。

いい日和なのでパンと缶コーヒーを買って、たこ公園で本を読む。
そこはほんとは多幸公園という名で、僕が物心つく前から親しんでいる馴染みの公園だ。幼い時分に多幸なんて言葉を知る由もなく、周りの大人が たこうの う を省略してたこたこ呼ぶので、たこ公園だと思い込んでいた。たこの遊具もないのにどこがたこなんだろう、と不思議に思うこともあったが、特にそのささやかな疑問を追求することもしなかったので、自分の中では、そこは未だにたこ公園で定着してしまっている。
たこ公園は、程よい広さで閑静で、陽当たりが良くてベンチが多く、ゴミ箱も随所に設置してある。桜の木は丁度いい感じに植わっていて、自販機も周囲にたくさんあって、おまけにノスタルジーに浸ることができる。僕の理想の公園像の要項をほとんど満たしている、まさにベストプレイスだ。
陽射しは円く、風のそよぎが安らかで、少し冷ややかなのが却って心地よかった。こどもたちが近くにいるのに、それらのはしゃぎ声は風に紛れてなんだか遠くの波音のよう。目前のジャングルジムで遊ぶグループが2回入れ替わったところで本を閉じて、たこ公園をあとにした。

夜、叔父と叔父の友人と酒を飲む。飲みすぎというより食べすぎでおなかがくるしかった。櫻一文字という日本酒をはじめて飲んだ。なかなかいける。一軒目がときたま行く海鮮メインのチェーン居酒屋だったんだけど、そこが専売してる「蟻」という焼酎の名前がなんか可笑しくていつも注文してしまう。蟻。
酔うとつい友達にべたべたしたラインをしてしまう。シラフの友達に、当然鬱陶しがられる。でも冷たくあしらわれるのがうれしくて、余計絡んでしまう。いつも翌朝起きてから、すこし反省する。

217

じいちゃんの訃報を受ける夢をみた。母にそのことを知らされたんだけど、存外母は落ち着いていて、その表情から、もうじいちゃんがいなくなったのを受け入れているのが、読みとれた。それを認めて安堵が悲しみを先回りして、泣けなかった。泣けないのが情けなくて、悔しかった。そこで6時のアラームが鳴って目が覚めた。なにか全体的に昏い印象の夢なので不吉だ。予知夢だったらどうしよう。と不安になっていると、また目が覚めた。さっきアラームが鳴ったのも夢の中で、スマホを見ると、まだ朝の4時だった。夢のマトリョーシカ。日が高くなっても訃報がなかったので、少しほっとした。

通勤時、空はねずみ色。雨がぽつぽつ降っていた。ふと右を見やると、道路の真ん中でからすが仁王立ちしていた。車が横の車線をびゅんびゅん走っている。それでもからすは、微動だにしない。危ないよとはらはらしてしばらく眺めていたが、幸いからすの車線に車は通らない。からすは石のように固まって、なんらかの決心を表明しているかのように、泰然と前方を睨んでいた。人々が忙しない金曜日の朝の往来で、からすだけ、時が止まっているかのようだった。

雨上がりの逢魔が時、しんみりとした人気ない通りに、からすの声が四方八方から谺する。右の呼びかけに答える左の鳴き声。前方の挨拶に答える右斜め後ろの声。とても騒々しくて、街は、からすの独壇場。見回してみても、からすたちの姿はなく、どこにいるのかよくわからない。空は、まだどんよりと重く曇っていた。傘は置いてきてしまっていて、いつまた降り出すかと不安だった。でもからすたちがこんなに元気に鳴き交わしているのだから、もう雨は降らないだろう。という根拠のない、妙な確信がふいに湧いてきて。それを得てからは、傘を持たずとも気楽な気持ちですいすい帰ってこられた。実際雨は降らなかった。初めてからすの報せの恩を受けた。ような。ていうかからすの報せってなんだ。よくわからんけど。今日はからすの日だった。


216

雲ひとつない、ペンキをべた塗りしたような紺碧の空がどこまでも続いている。朝いつも前を通る公園に、おばけ楠があって、紺碧を背にした、その巨大な楠の梢のすきまから、ぎらぎらと鮮烈な群青が主張している。その光景はなんだか、すでに完成した画に、楠だけあとからぺたっと切り貼りしたような感じだった。ひっそりとした町のなかで、それはどこか浮いていて、まるで印象派の油絵のような、サイケな風情を醸し出していた。

なぜか尋常じゃないくらい眠い。どうしても集中できなくて、ブログを書こうとしても、草案はすぐにほどけてしまう。

真昼、太陽が激しく照っている。日向をぼうと眺めていると、陽炎が影から影へ、ゆらゆら煙のように流れていた。暖かくてとてもいい気持ち。でも明日は雨で、また冷え込むらしい。やだな。

話すときにいつも顔が近いと言われた。意識してなかったけど、耳があんまり良くないから、傾聴してるときに、自然に顔を近づけてしまってるんだと思う。これからはちょっと気をつけよう。

215

よくあくびをする。と、よく指摘される。朝は特に出る。低血圧だからなのか、脳の酸欠が原因でうんちゃらかんちゃらなのかなんなのかしらないけれど。ふわふわふわふわ出る。って意識したらまた出た。あくびは、好きだ。あくびをすると、なにか自分の根幹というか、魂のようなものがふわりと出て、どこかへ昇って行くような開放感がある。そしてあくびをしてるときは意識が空白になって、前後が曖昧になり、凝った気持ちがいささか解れ。意識の澱も濾されてすっきりする。ような。

スタバのチャイティーラテがとても好き。オールミルクでオーダーすると、美味しさ3倍増し。一緒にスコーンもつけるのがベター。
甘くてトロトロ温かいものが好きだけど、手近に安価でそういったものがあまりない。コンビニがコーヒーのノリで、ホットチョコレートでも扱ってくれたらなぁ。

日が完全に沈んで真っ暗になっても、あまり寒くない。帰り道自転車をこいでいても、鼻水が出ないし、手も痛まない。嬉しい。嬉しいけど、まだ2月の半ばだし、また厳寒の日も来るだろうな。と思うとげんなりする。げんなりするから、ビールを買って帰る。