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熱帯魚を飼う夢を見た。暗い部屋で、横の長さが2メートル以上はありそうな、大きな水槽がぼんやりと淋しく光っていて、俺はその水槽の前にちょこんと正座していた。水槽を覗くと、大きな灰色のたつのおとしごや、小さいテトラたちや、プレコや、コリドラスがゆらゆら泳いでいる。俺は餌をあげようと、スプーンで顆粒状の餌を容器からすくい、水槽の蓋の窓を開いた、すると、水面を泳いでいた、鮮やかな青い身体の中央に、血のように濃い赤の太いラインが横に一本入った大きな魚が、勢いよく飛び出してきた。飛び出した魚は、水浸しになった床の上で苦しそうにびちびち跳ねていた。やがて魚の身体はみるみるうちに萎んでいき、その眼から光は失われ、跳ねる力も次第に弱くなってきたから、俺は慌てて魚を掴んで水槽の中に押し込んだ。魚は水中でしばらく縦になってぐったりしていたけど、しばらくすると、また元気に群れに混じって泳ぎ回り始めた。そして安心して、もう一回餌をやろうと窓を開けると、その魚は懲りずにまた外へ飛び出してきた。夢の記憶はそこで途絶えている。その内容とは裏腹に、なぜか安らかな心地になるふわふわした夢だった。夢に水槽がよく出てくる気がする。

 

そういえば中学生のころ、実際に熱帯魚を飼育していたことがある。とは言っても、自分で購入したわけじゃなくて、父が不在のときに父の熱帯魚の世話を任されていただけだ。水槽には、プラティという肥えためだかみたいな丸っこい小さな魚がたくさんいて、群れを成している。ある日、俺はそこに、買ってきた灰めだかを1匹入れてみた、すると闖入者のめだかはたちまち怒ったプラティに追い回されて、水槽の端に追いやられてしまった。その日めだかは、底にある流木の陰に留まって、ずっとしゅんとしていた。俺はめだかに悪いことをしたと、申し訳なかった。

翌朝、めだかが気になって水槽を覗いてみると、なんとめだかはプラティの群れに混じって、元気よく泳ぎ回っているではないか。えさを入れるとめだかはプラティと一緒に塊を突く。あんなにぷんすかだったプラティたちは、俺が寝ている間に、闖入者のめだかを群れの一員としてすっかり迎え入れていた。それを見ていると、胸がじいんとして、泣きそうになった。めだかとプラティはまるで最初から一緒だったように、それから何日経ってもずっと仲良く泳ぎ回っていた。

後日その熱帯魚たちは、さじ加減のわからない幼い弟がえさやりをしようと意気込み、容器のえさを全部水槽にひっくり返して、全滅させてしまった。

たまにあのめだかとプラティのことを思い出す。またいつか魚を飼いたいな。

 

空は明るいけど雨がぽつぽつと降ってきた、今から友人とラーメンを食べにいく。